奴隷のような生活に苦しみ、その苦しみを分かってくれるのは同じ境遇の若い女王だけと希望を持つ少女。 圧政を強いて民から恨まれ、王であった父親を耐え兼ねた民によって殺された少女は、全てを手に入れたように思える同じ年頃の若い女王に憎悪を抱く。 期待と希望、落胆と失望、様々な感情を向けられる女王は先代から続く官吏の専横を御しきれず、何も知らないことを侮られ無力な傀儡と化していた。 苦難の運命に抗う3人はやがて導かれるように出会い、同じく苦難に耐え苦しむ民衆を救うため立ち上がる/風の万里 黎明の空 十二国記 小野不由美

※この記事は十二国記シリーズ第四巻の紹介記事となりますので、第一巻「月の影 影の海」、第二巻「風の海 迷宮の岸」、第三巻「東の海神 西の滄海」を読了していることが前提となります。

「月の影 影の海」「風の海 迷宮の岸」「東の海神 西の滄海」の内容に触れていますので、まだ読んでいない方はご注意ください。

「月の影 影の海」の紹介記事はこちら

「風の海 迷宮の岸」の紹介記事はこちら

「東の海神 西の滄海」の紹介記事はこちら

【簡単なストーリー】

貧しさから人買いに売られた大木鈴は、連れて行かれる途中で転げ落ちてしまい気づけば十二国の世界に辿り着いていた。

言葉も文化も違う世界で海客として生きる鈴は、その苦しみから解放されたくて言葉が通じるようになる仙籍に入れて貰ったものの、そこで奴隷のような扱いを受け続け苦しむことになる。

同じ海客で慶国の女王になった同じ年頃の少女がいると聞かされ、鈴は海客としての苦しみを唯一分かってくれるに違いない女王に幻想を抱くようになる。

きっとこの苦しみから女王は助けてくれる、と。

芳国の王、仲韃(ちゅうたつ)は圧政を強いて民から恨まれ、このままでは国が亡ぶと危惧した民衆によって天意が尽きる前にその首を落とされる。

目の前で母親と麒麟を殺された娘、祥瓊(しょうけい)は宮城を追い出され新しい氏名と身分を与えられ、里家へと預けられ最低限の生活を強いられる。

全てを奪われたと考え、自身の責任について考えの及ばない祥瓊は憎悪を募らせ、同じ年頃の少女が女王になったと聞き、その憎しみを景王へと向ける。

奪うことが許されるのなら景王から全てを奪ってやる、と。

新しい王が起ったことを喜び、これからの生活が良くなることを期待した民衆たちは女王と聞いて落胆する。

また女王か、という落胆は景王になった陽子の耳にも届いていた。

短い治世の王が続いた為、官吏は王を侮り思うがままに官吏同士の権力争いに明け暮れていた。

言葉は通じても読み書きが出来ず、この世界の常識が何もわからない陽子にはどうしたら良いのかわからず、自身が傀儡のようになっていることを自覚する。

思いつめた陽子は王宮に閉じこもるのではなく、直接目で見て慶国の実情とこの世界について学ぶことを決める。

街に降りた陽子が見たのは、役人によって苦しめられている民の姿だった。

生まれも育ちも何もかもが違う3人の少女は、やがて出会い苦難の運命に立ち向かう。

著:小野不由美/新潮文庫

どんな本?

第一巻「月の影 影の海」で最後に女王となった陽子のその後の物語です。

慶国は長らく王に恵まれておらず、治世の安定しない時期が続いている為国は荒れ民は貧しさに苦しんでいました。

その中で、偽王を打ち倒し、大国延王の助力を受けて即位した新しい王に民衆は大きな希望を抱いています。

しかし、王が女王だと知るとその期待は落胆へと変わります。

官吏が思うがままに王宮を支配している状況では、海客で十二国のことがわからない陽子では手に負えません。

陽子は傀儡のようになっていく自分を嫌悪し、苦悩します。

本作では王という希望の存在について、一方的な幻想を抱く海客の大木鈴と、何の苦労もなしに全てを手に入れて、思うがままに過ごせることを恨む祥瓊、苦しみを救ってくれると信じる民衆と様々な角度から王の存在を描いています。

陽子、大木鈴、祥瓊の3人を中心に物語が展開し、それぞれが苦難の運命に立ち向かい一つの答えを得ます。

人間の弱さ、愚かさが描かれその中で懸命に生きる人々から発せられる言葉の数々には、はっとさせられることが多く、何度も読み返したくなる作品です。

今後の話の布石となる内容も盛り込まれており、十二国記の世界が広がって十二国記シリーズがますます好きになります。

【百年の奴隷生活】

日本で人買いに売られた大木鈴は、連れて行かれる途中で転げ落ちて慶国へと辿り着いてしまいます。

言葉も文化も違う世界に戸惑い、訳の分からないまま生活をすることになりますが、どうしても言葉を習得することが出来ず、苦しんだ鈴は言葉が通じた仙人の梨耀(りよう)に仙籍に入れて貰い、言葉が通じるようにしてもらいます。

代わりに梨耀のもとで働くことになりますが、それが地獄の始まりでした。

梨耀は才国の先々代の王より琶山を下賜されており、山の中腹に居を構えていました。

翠微洞と呼ばれる住居で梨耀の世話をする鈴でしたが、それは過酷を極めていました。

梨耀は鈴を特に嫌っており、怯える鈴をいたぶるように言葉で詰り無理難題を押し付けます。

仙籍を剥奪されて、言葉が通じなくなることを恐れる鈴は逃げ出すことが出来ず、梨耀の嫌がらせに耐え続け、気づけば百年の月日が流れていました。

梨耀から慶国に鈴と同じ年頃で海客の女王が即位したと聞かされ、同じ海客ならきっとこの苦しみをわかってくれるはずと景王に幻想を抱くようになります。

鈴にとって景王はこの苦しみから救ってくれる唯一の救いとなっていました。

梨耀から死んでもおかしくないような用事を言いつけられ、耐え兼ねた鈴は采王へ訴え出ることを決め、翠微洞から逃げ出すことにします。

鈴の境遇は本人が言う通り悲惨で、ひたすら可哀相です。

生みの親から人買いに売られたと思ったら、今度は言葉も通じない世界に放り出され、まだ子供といえる年齢の頃から苦労を重ねます。

言葉が通じないことに苦しみ、仙籍に入れて貰って言葉が通じるようになったと思ったら長きにわたる奴隷のような生活を強いられます。

鈴は海客ということで十二国の世界に来てから馴染めず、その苦悩を内側に溜め続け、翠微洞という狭い世界で長く過ごしたせいで、海客である自分は世界で一番不幸で可哀相で、じっと耐えている自分は間違っていないという幼い価値観が根付いてしまいます。

根拠もなく景王は自分の苦しみを分かってくれるという幻想を抱き、憐れみと施しがあることを願っています。

辛いことや耐え忍ぶことが続くとそれを打開することよりも、いつしか耐えている自分を美化するようになってしまいます。

鈴にはそれを諭してくれる人も、相談に乗ってくれる友人も身近にいなかったため、鈴は自分が正しいと信じて疑わず、自分の望む答えがないと相手を拒絶してしまいます。

鈴は死にそうな目にあってようやく自分の意志で動き出しますが、根底にある鈴の幼い価値観を采王に見抜かれ、初めて教え諭されることになります。

【悪逆非道の王の娘】

芳国の王、仲韃はその厳しすぎる法律で民を苦しめその恨みは芳国全土に渡っていました。

民衆の代表として、恵州侯月渓(げっけい)は王宮へと攻め入り仲韃の首を刎ね、祥瓊の目の前で母親と峯麟を殺します。

宮中深くで贅沢をし自分が楽しむことしか考えていなかった祥瓊は、父親がここまで民に恨まれていたことを初めて知ります。

過酷な刑罰で次々と民を殺していった仲韃の圧政は民を苦しめ、それは天意が尽きるのを待っていれば芳国は滅びてしまうと考えてしまう程のものでした。

何も知らず、知ることもしなかった祥瓊は月渓を簒奪者と呼び憎みます。

月渓は祥瓊の仙籍を剥奪し別の戸籍を与えて素性を隠し、里家へ預けます。

宮城の煌びやかな生活から一変して、経験したこともない貧しい生活を強いられることになります。

里家の長の沍姆(ごぼ)は、当初は祥瓊に優しく接していましたが祥瓊の素性に気づいてしまいます。

公主としての自分が忘れられない祥瓊は、沍姆の優しい言葉に騙され自分の素性を明かしてしまいます。

沍姆の息子は刑場に引き出される子供を憐れんで石を投げて、それを咎められ殺されていました。

沍姆は憎しみを露わにして祥瓊にぶつけますが、祥瓊は何も知らなかった、法を犯すのが悪いとして父王の過ちと自身の罪について認めようとしません。

沍姆は祥瓊に辛く当たるようになり、祥瓊はそれを屈辱と感じて憎しみを募らせます。

祥瓊は民が父王を憎んでいたことも、月渓が王位を簒奪しても民がそれを咎めないことも理解できません。

里家の貧しい生活を経験しても、沍姆から憎しみをぶつけられても祥瓊には何が悪かったのかがまるでわかりません。

胸の内は常に法を守らない民が悪い、何も知らなかったのだから関係ない、家族を殺して王位を簒奪した月渓が悪いとして、憎しみばかりを募らせます。

宮城とは違う過酷な生活の中、祥瓊は慶国に若い女王が起ったこと知ります。

新しい女王について話す里家の者たちにとって、宮城の暮らしは想像できませんが祥瓊は違います。

かつての公主としての生活を思い出し、自分が失った煌びやかで豪勢な生活を送る景王が許せません。

祥瓊の憎しみは次第に景王へと向かっていきます。

祥瓊には公主としての責任について何一つわかっていませんでした。

責任ある立場の人間が言う、知らなかったのだから悪くないという言い訳に聞く耳を持つ人はいません。

祥瓊は自分の愚かさに気づけないまま憎悪を膨らませ、里家の生活が貧しく苦しいのは父王の政治の結果だということもわからないまま、景王へその憎悪を向けてしまいます。

【傀儡の女王】

新しく慶国の女王となった陽子ですが、長く治世の安定しなかった慶国の官吏たちは三代に渡って女王が短命に終わったため、新王が女王と分かり落胆します。

そして、読み書きが出来ない上に十二国の世界の常識が分からない陽子は、景麒に頼らなければ何もできない状態でした。

何をするにも横に控えている景麒に質問し、時には翻訳してもらわなければならない新しい女王に官吏たちはため息を漏らし、陽子を侮るようになります。

陽子が一人になるところを狙って重要な決裁を迫り、陽子自身の口から「わからない」と言わせて女王としての自信を無くさせ、自分に全て任せるよう誘導します。

官吏も景麒も陽子にため息をつき、陽子を置いて勝手に進む朝廷内の政治に嫌気が差します。

唯一偽王軍に下らなかった麦州侯の浩瀚(こうかん)について、朝廷内でその処遇について意見が分かれます。

偽王であることが分かるはずがなかったとして、偽王軍に下らなかったのは玉座を狙ってのことだと主張する派閥とそれに反対する派閥、浩瀚の処罰を反対する景麒とどの意見を聞き入れても落胆とため息があると思うと、陽子には決断が出来ません。

陽子がうんざりしているところに、天官長太宰の自宅から大量の武器が発見され弑逆を企んでいたことが発覚します。

陽子は官吏たちに受け入れられていないことは分かっていたものの、まさか殺される程にまで憎まれていたとは思わず、衝撃を受けます。

弑逆の企ての背後には浩瀚がいると報告を受け、哀れみを優先する景麒の意見を受け入れて浩瀚に厳重な処罰をしなかったことを後悔します。

朝廷内は弑逆未遂事件に各派閥の言い争いが勃発し、その様子を見た陽子は官吏の言いなりになるのを辞めて、初めて女王の権限で官吏と景麒の不平不満を無視して自分が思っていた通りの命令を下し、官吏が追ってこれない内宮の自室に戻ります。

慌てて追いかけてきた景麒に、このまま王宮にいては顔色とため息に怯えるだけで何も出来ないと話し、慶国の実情を理解するため街へ降りることを伝えます。

とんでもないことを言い出す陽子に渋い反応をした景麒ですが、陽子が玉座を投げ出した訳ではないことを理解して、陽子を街へ送り出すことにします。

長きにわたり官吏の専横が続いた玉座を引き継いだ陽子を待っていたのは、王を蔑ろにした官吏たちの権力争いでした。

陽子の味方は王宮内では景麒のみという状況にもかかわらず、麒麟は民への哀れみが優先してしまう為、景麒の言うことを聞き入れすぎてはいけないという厄介な一面があります。

延王や官吏たちからも麒麟の言葉が全て正解ではないと助言を受けており、陽子は王宮内に景麒以外の信頼できる官吏がないことの辛さを実感します。

景麒はとにかく口下手で渋い顔とため息が多く、その言動が陽子を益々追い詰めます。

官吏とも景麒とも上手くいかない陽子の様子は、元々の気質が似ていたこともあって予王を想像させます。

恐らく予王も陽子のような状況に陥ってしまい、玉座を投げてしまったのでしょう。

景麒は内宮の自室に戻った陽子から「玉座が欲しかったわけではない」と告白され、予王もまた玉座を求めていたのではなく、一人の女性としての小さな幸せを望んでいたことを思い出し、陽子に告白されて初めて予王と同じ道を辿らせるところだったと気づきます。

陽子は予王と違って玉座を疎まず、今の状況を変えるために動き出します。

予王の失敗があるからこそ、景麒もまた陽子の行動を受け入れたのではないかと思います。

景麒は予王は思慮深く優しい性格で、玉座に値しない人間ではなかったと回想しています。

予王時代の慶国について詳しい内容は語られていませんが、景麒の評価の通り予王は過酷な刑罰を定めたり私腹を肥やそうとはしておらず、景麒に執着するまで国民を虐げる行いはしていません。

天意が尽きてしまったのは、景麒に執着するあまりに予王自身が国中から女性を追い出そうとしたことであり、それさえしなければ予王の在位はいずれ崩壊するにしても、まだ続いていたのかもしれません。

王を辞めたくても辞めることが出来ず、現実から目を逸らして責任から逃げ続ける生活は、思慮深く優しい性格の人間を狂わせるには十分だったのではないでしょうか。

【采王と鈴】

決死の想いで才国の国府に逃げ込んだ鈴は、采王により保護されます。

采王黄姑(こうこ)は在位十二年の穏やかな物腰の老女で、初めて見た王という最上の存在に鈴は戸惑います。

鈴の訴えを聞き入れてくれる黄姑に深く感謝し、鈴はひとまず王宮で暮らすことになります。

黄姑は梨耀を呼び出し、鈴の訴えた内容を確認します。

梨耀は境遇に不満がありながらも我慢をしていたのは鈴の方だと話し、本当に嫌なら自分から出ていくはずだと答えます。

そして、鈴が海客として生きる上で辛いことの一番の理由としていた、仙籍を剥奪されると言葉が通じなくなることについて、梨耀は同じ言葉が話せても通じるとは限らないと言い捨てます。

梨耀と黄姑の会話は平行線で分かり合うことはなく、梨耀は自らの主張を変えないままその場を去ります。

黄姑はため息をつき、梨耀の元にいる者たちを王宮に召し上げることを決めます。

しかし、その中に鈴を入れず街に出て見識を広めその幼い価値観から抜け出て大人になる機会を与えます。

梨耀から解放されて、翠微洞とは段違いの豪華な内装と穏やかな王宮で働けると思っていた鈴は、落胆し黄姑を恨むようになります。

自分の辛い気持ちは分からないとして黄姑の言葉を頑として受け入れず、わかってくれるのは同じ境遇の景王だけだと思い込みを強くします。

言葉が届いていない様子の鈴に黄姑は重ねて諭すように言葉をかけますが、今の鈴には自分の望む憐れみと施しをくれない黄姑はもはや憎しみの対象になっていました。

何もわかっていない様子の鈴を黄姑は悲しげに見送ります。

鈴の視点から見る黄姑と采麟はどちらも物腰が穏やかで、何もかもが満たされている様子の王宮に、鈴は二人が何も苦労などなく生きていると表面だけを見て判断します。

黄姑と采麟については短編集「華胥の幽夢」の「華胥」の才国の話を読んで、もう一度黄姑と采麟のシーンを読み返すとまた違った印象を受けるようになっています。

言葉が話すことと通じることは違うことや、黄姑が語りかけた鈴への言葉の数々は心に留めて置きたい言葉ばかりです。

慶国へと向かった鈴はその途中で少年と出会うことで、鈴は久しぶりに下界とのかかわりを持つようになり、自身の甘さと幼さを自覚し、下界で暮らしている人々の過酷な現実を知ります。

鈴が少年と関わることで次第に鈴自身にも変化が現れますが、念願の慶国に辿り着いて直面したのは、鈴が経験した我慢していればいい程度の辛さどころではない、理不尽で非情な現実でした。

【罪の自覚】

里家の者たちと馴染めず沍姆からも辛く当たられ、貧しく惨めな生活に祥瓊は豪勢な生活をしているであろう景王を想像しては憎しみを募らせます。

沍姆に対しては、とにかく上辺だけの謝罪と態度でやり過ごすことを覚えて、沍姆の気が済むのを待っていましたが、その態度を見抜いた沍姆が激しく叱責します。

被害者意識が消えない祥瓊は沍姆のいつもと違う激しい怒りに苛立ちを感じますが、いつまでも変わらない祥瓊の態度に沍姆の怒りと憎しみは爆発し、祥瓊が仲韃の娘であることを口走ってしまいます。

里家の者に祥瓊の素性が知られてしまい、家族を残虐な刑で殺された恨みは祥瓊へと向けられます。

怒りと憎しみが大きすぎて、沍姆では里家の者たちを抑えることが出来ません。

激しい憎悪を向けられても、祥瓊は法を守らない方が悪い、王位を簒奪した月渓こそが悪だと主張し、目の前で母親を斬り殺されても人の痛みがわからない祥瓊を沍姆は軽蔑します。

里家の者たちは、かつて仲韃が行っていた車裂きという残虐な方法で祥瓊を殺すことにします。

自分にそんな恐ろしいことが行われるとは思わなかった祥瓊は、初めて恐怖に震えます。

刑が執行され始めてすぐに月渓の部下が静止したため祥瓊は命を救われます。

再び月渓と会った祥瓊は月渓に怒りをぶつけますが月渓は相手にしません。

月渓は罪を自覚出来ず己のことしか考えていない祥瓊に、仲韃を殺すに至った経緯とこれから芳国が困難に見舞われることを説明しますが、その言葉は祥瓊には届きません。

二人は分かり合えないまま、祥瓊は国外追放処分となり恭国へと送られます。

里家の者たちから憎悪を向けられ、父王の過酷な刑罰で殺されそうになっても月渓から諭されても祥瓊は罪を自覚出来ません。

恭国の供王、珠晶(しゅしょう)は見た目は幼い少女で、年の近い景王に憎悪を向けていた祥瓊にとって、自身の矜持が最も傷つけられるもので頭を下げて這いつくばる立場を認めたくありません。

立場の違いを明らかにして祥瓊の目の前で仲韃の愚かさ指摘し、月渓の行動を英断として褒める珠晶に屈辱を感じます。

公主だからといって特別扱いしない珠晶は、今の祥瓊に見合う境遇しか与えません。

王としての立場から愚かさを指摘されても、祥瓊はその言葉の意味を理解できず身勝手な怒りを募らせ、とんでもない暴挙に出ます。

柳国へと逃げ出した祥瓊はそこで楽俊と出会います。

祥瓊を放っておけなくなった楽俊は、しばらく一緒に旅をすることにします。

高価な騎獣を連れた博識な楽俊の素性を訝しむ祥瓊でしたが、他に当てがないため楽俊に付いていくことにします。

その道中で、祥瓊は初めて他国の様子やなぜ祥瓊が憎まれるのか楽俊によって教え諭されます。

楽俊の言葉に言い訳ばかりがつい出てしまう祥瓊でしたが、柳国を旅することで次第に楽俊の言葉の意味がわかるようになります。

自分が芳の国民に対して何をして何をしなかったのか、その結果、芳国に訪れる王不在による苦難を理解し、初めて心の底から自身の罪と周囲が祥瓊に与えていた罰の意味を理解します。

楽俊が祥瓊にかけた言葉の数々は、自分も祥瓊のようになっていないかと何度も読み返したくなる名言の宝庫です。

本当に恥ずかしいとはどういうことか、ずばり言ってのけた楽俊の言葉にははっとさせられます。

変わり始めた祥瓊は、楽俊が親しげに話していた景王に会ってみたい、景王が造る国を見てみたいと、今までの考えを改め慶国へ行くことにします。

祥瓊の公主として辿った末路は、才の利耀との対比となっています。

祥瓊は自分のことしか考えず、民の為に父王を諫めなかった為王宮を追放され、公主としての責任を全うしなかったから、追放された後の祥瓊には何も与えられませんでした。

利耀は王の寵愛を受けて王宮にいましたが、王を助けて時には諫め、唆そうとする臣下がいれば王の代わりにそれを咎めました。

そのおかげ憎まれ、ついには王からも疎まれ王宮を追い出されましたが利耀が去った後の才国は破滅へと向かっていきました。

飛仙になって翠微洞を与えられたのは利耀の功績が大きかった為で、罪の重さから仙籍を剥奪せざる負えず、恨まれている為に素性を隠して里家へ送り込むしなかった祥瓊とは大違いです。

王が倒れ、王宮から追放されるという同じ結果となったとしても、祥瓊は利耀がしたように、王を助け、時には諫めなければなりませんでした。

【豊かな国とは】

陽子は景麒が手配した里家で、遠甫(えんほ)という老人から慶国の実情と民の暮らしについて教えを受けます。

結婚の制度も違う十二国記の世界では、陽子の世界とでは根本的に幸せや豊かな国という価値観に違いがあります。

そのことを学び、荒廃し疲弊している慶国を豊かにするにはどうしたら良いのか陽子は遠甫から学び、里家の暮らしを経験することで王宮ではわからなかったことが分かるようになります。

遠甫を訪ねる怪しい男たちがいて、気になった陽子はその正体を突き止めるべく街へと向かいます。

そこで見たのは許した覚えのない重税と残酷な刑罰、そして民を苦しめる役人の姿でした。

怒りを覚える陽子ですが、女王を侮る官吏の暴走は止まらず、そしてそれはお世話になっていた里家に悲劇をもたらします。

王宮から見えないところで行われていた役人の横暴とそれに苦しむ民の姿を前にして、王でありながら何もできない自分に陽子は無力感を覚えます。

芳国の民が仲韃に立ち向かったように、慶国の民もまた黙って虐げられている訳ではありませんでした。

新しい女王へ希望を見出し、陽子が動けない代わりに慶国の民は自身で状況を変えるべく立ち上がります。

【最後に】

交わりそうになかった鈴と祥瓊、陽子の物語が合流し始めると一気に物語が加速して面白くなります。

運命に導かれるように慶国へと集まった三人は、慶国の民を救うため協力し合います。

三人の成長過程を知っているからこそ、物語の終盤で明確な意思と大義をもって慶国の民を導く姿は感動的です。

本作では、言葉が話せることと通じることは違うということが、鈴と祥瓊、陽子それぞれの場面で描かれています。

言葉さえ話せれば全てが解決すると考えながら人の言葉を聞かない鈴と、犯した罪を目の前で糾弾されてもわからなかった祥瓊、陽子を侮って言葉巧みに騙す官吏に囲まれ景麒とは意思疎通が上手くいかない陽子、と同じ言葉を話しているのに通じ合えません。

苦難に立ち向かった慶国の民たちの間でも、言葉は上手く伝わらず一つに纏まることが出来ない場面も出てきます。

全編を通して描かれた「言葉が通じない」という壁は、思い悩んできた陽子が目指すべき王としての在り方を見つけ、自らの言葉をもってしてその壁を打ち破る姿がとても格好良いです。

本作のラストシーンはNHKのアニメ版十二国記で、声優さんの演技、絵、演出、音楽全てが素晴らしいので、機会があったらぜひ見て欲しいです。

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