人々の生活を変える画期的な自動ロボットを開発した男は、罠に嵌められ三十年の冷凍睡眠を強いられる。目覚めた三十年後の未来で見たのは見覚えのある自動ロボットの進化した姿だった/夏への扉 ロバート・A・ハインライン 訳 福島正実

お勧めのSF小説としてよく挙げられている作品でしたので読むことにしました。

猫好きの人にお勧めの小説としても名前の挙がることの多い有名な作品です。

こちらの作品と同じく有名なSF小説「星を継ぐもの」(ジェイムズ・P・ホーガン)の紹介記事はこちら

【簡単なストーリー】

1970年代、ダニエル・ブーン・デイヴィスは親友のマイルズ・ジェントリィと共に家庭内の主婦の仕事を代行する自動ロボットを開発し、販売を始めたところ自動ロボットは大ヒット。

二人は株式会社を設立し、そこに経理担当として採用したベル・ダーキンが加わり会社の事業は順調に伸びていった。

ところが、技術者としてのダニエルの考え方と商売人としてのマイルズの考え方は次第に対立するようになってしまう。

開発をすることにしか興味を持たず、身勝手な振る舞いをするダニエルにマイルズとベルは共謀してダニエルから全てを奪い取り、会社から追い出します。

会社も開発したロボットも失ったダニエルは、一矢報いる為二人に会いに行き返り討ちに遭って30年の冷凍睡眠をさせられてしまう。

2000年、30年の冷凍睡眠から目覚めたダニエルが見たのは自身が開発したロボットの完成形だった。

ダニエルが冷凍睡眠させられた後、一体誰がロボットを完成させたのか。

眠っていた30年を調べていく内にベルとマイルズの辿った意外な結末を知る。

そして、ダニエルは身に覚えのない発明がダニエルの名前で特許申請されいることを知り益々混乱していく。

真相を確かめる唯一の方法が2000年の未来にはあった。

ダニエルは1970年に戻り、冷凍睡眠させられたあの日の真実を探しに行く。

愛猫のピートと共に次の扉は、きっと夏へと通じていると信じて。

著:ロバート・A・ハイライン

訳:福島正実/ハヤカワ文庫

どんな本?

古典SF小説として有名な作品です。

ダニエルにとって大切な存在として飼い猫のピートが登場することで、猫好きにお勧めの小説として紹介されていることもあります。

舞台は1970年ですが、冷凍睡眠という技術があり保険会社がこぞって冷凍睡眠を商品として売り出しているという設定があります。

ダニエルは罠に嵌められ強制的に30年の冷凍睡眠をさせられることで、体感としては30年後の未来の2000年へ一瞬で飛んだことになります。

ダニエルにとって2000年の未来は、不可解なことだらけでした。

どうやら冷凍睡眠をさせられた前後で何かが起きているようだと、ダニエルは事の真相を確かめるため2000年に開発されていたタイムマシンで1970年に戻ります。

未来と過去を行き来するタイムトラベルを題材にしたSF小説で、序盤の1970年は様々な伏線が張られています。

タイムトラベルを題材にした場合、時間を移動することについて作品毎に様々な設定があります。

本作では移動する世界は変わらず、2000年から1970年に戻ったダニエルは、生まれてから1970年まで連続した時間の中で生きている1970年のダニエルと、同時に存在することになります。

つまり、未来から来たダニエルは1970年に生きている自分自身と鉢合わせをしてしまう可能性があるのです。

未来から過去へ戻った際にその年代にいる自分と入れ替わるのではなく、同時に存在してしまいます。

また、未来と過去の移動ができると未来を変えようと過去に干渉する場合がありますが、本作では未来改変は出来ないという設定になっています。

映画「バックトゥザフューチャー」は過去への干渉が未来を変えてしまいますが、本作では未来は絶対であり変わることは決してありません。

ゲームとアニメで人気を博した「STEINS;GATE(シュタインズ・ゲート)」のように、無数の世界が同時並行で存在していて、タイムマシーンによって「ダニエルが冷凍睡眠させられない世界」に飛ぶこともありません。

基本的に本作では起きたことやこれから起こることへの干渉は出来ないことになっています。

この前提で読み進めていくと、30年前の真実が明らかになっていく過程が面白く、きっとまた最初から読み直したくなるはずです。

【30年の冷凍睡眠】

ダニエルは技術者としては一流でも、商売人としては才覚がありませんでした。

ダニエルの技術者としての拘りは、効率よく利益を上げることを考えるマイルズとは価値観が合いません。

そこに欲深いベルが加わることで、ダニエルは会社も開発したこれまでのロボットのあらゆる権利も失います。

親友のマイルズと婚約者のベルの手酷い裏切りに自暴自棄になったダニエルは、相棒の飼い猫のピートと共に冷凍睡眠に入ることを決めます。

しかし、冷凍睡眠に入る前に裏切った二人と戦うことを決めたダニエルは衝動に突き動かされるまま、全面対決をするため二人に会いに車を走らせます。

マイルズとベルとの口論の末、ダニエルは薬を打たれて体の自由を奪われそのまま30年の冷凍睡眠をさせられてしまいます。

冷凍睡眠をさせられるまでのシーンは、今後の重要な伏線が張られています。

ダニエルが開発した作中の自動掃除ロボットは、ほぼ同じ機能で「ロボット掃除機ルンバ」として実現しています。

ダニエルの開発理由や、商品への拘りは現代にも通じる考え方で1956年発表の作品とは思えないほど現代的です。

著者の未来への想像が突飛なものではなく、本当に未来を見てきたかのような現実感があり、古典作品といわれるほど古い作品なのにかかわらず、今もなお新鮮さを持って読むことが出来ます。

【目覚めたら2000年】

強制的に冷凍睡眠をさせられ、目覚めたダニエルが見たのは冷凍睡眠から目覚めた患者をサポートする自動ロボットでした。

1970年では完成することの出来なかったロボットに驚き、ダニエルは誰が開発したのか知りたくなります。

医師から2000年で生活することの注意を受け、30年で瞬く間に進化したあらゆる技術や文化に戸惑いながらも適応していきます。

ダニエルはマイルズとベルによって、マイルズの義理の娘のリッキイが酷い目に遭っていないかと心配します。

リッキイの行方を捜しつつ、どうやらマイルズとベルの目論見は外れて二人の計画はダニエルが冷凍睡眠に入っている間に破綻したことを知ります。

二人の計画はなぜ破綻してしまったのか。

2000年代でも技術者として生きていきたいと考えたダニエルは、マイルズとベルによって追い出されたかつての自分の会社へ就職します。

会社は冷凍睡眠から目覚めた偉大な創業者という広告塔としてのダニエルに価値を見出しており、新しいロボットを発明したいと考えるダニエルを認めようとしません。

会社は30年前の知識と技術で止まっているダニエルを技術者としては期待していないのでした。

ダニエルは新しい発明に意欲的に取り組みながら、ロボットの開発者について調べ始めます。

そこで身に覚えのない発明品の特許申請がダニエルの名前で出されているのを知り、混乱します。

ダニエルは自らの技術者としての才能に自信があり、2000年代に普及しているロボットについて、自分と同じ発想をして実現をする技術を持っている人間が他にいることに驚きます。

【不安定なタイムマシーン】

行方の分からないリッキイと何故か財産を失っていたベルとマイルズ、発明した覚えのないロボットなど冷凍睡眠の間に納得のいかないことが多く起きていて、ダニエルは真相をどうしても確かめたくなります。

会社の同僚に悩みを打ち明けたところ、同僚からタイムマシーンの存在を聞き1970年に戻って何が起きているのか確かめることにします。

タイムマシーンは完璧とはいい難く、未来と過去どちらに飛んでしまうかは制御できない危険なマシーンでした。

それ故に研究は頓挫し、開発した教授は認められなかった研究成果に失望し酒浸りになっていました。

ダニエルは人体実験はしないという教授を騙し、リスクを覚悟で決死のタイムトラベルを行い1970年に戻ります。

本作ではある歴史的偉人が、教授の人体実験の被験者でタイムトラベラーである可能性を示唆しています。

【反撃の始まり 再び1970年へ】

1970年に戻ったダニエルは、そこで出会った人たちの協力を経てロボット開発を急ぎます。

同時に最初の1970年では出来なかったベルの身辺調査を行い、彼女が何者なのかを調べ上げます。

ダニエルは自分が冷凍睡眠をさせられるまでの間に何があったのか、その真実を知ることになります。

もう一度訪れた1970年は怒涛の伏線回収の嵐となり、「そういうことだったのか」と全てが繋がっていく様は気持ちよいほどです。

ダニエルは、マイルズとベルに最初の1970年には出来なかった反撃を開始します。

全てを奪われたことへの恨みは勿論ですが、ダニエルを深く傷つけたのは相棒のピートがダニエルに何が起きたかわからないまま野良猫にさせてしまったと思ったことです。

ピートとリッキイがどうなったのかは二回目の1970年にて明かされ、ダニエルは奔走します。

【最後に】

タイムトラベルを題材にしたSF小説で、読み終わってからもう一度最初から読むと緻密な構成と計算尽くされた伏線に二度驚きます。

ピートはダニエルにとって重要な存在ですが、作中の出番はそれほどありません。

ピートを家族として考え、猫の行動について独自の解釈や持論を展開している為、猫好きの人に薦める小説として挙げられることがあるのだと思います。

猫のピートが主役ではありませんので、猫が中心の物語だと思っていると肩透かしとなってしまいますので注意が必要です。

タイムトラベルが題材となった作品が好きな方、全ての伏線が綺麗に回収される緻密な構成が好きな方にお勧めの小説です。

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