母親を守りたかった少女の声は、誰にも届かなかった。全てが敵だとわかった時、彼女の復讐が始まった/ミレニアム2 火と戯れる女 スティーグ・ラーソン 訳 ヘレンハルメ美穂 山田美明

※この記事は「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」の続編「ミレニアム2 火と戯れる女」についての内容となりますので、「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」の内容に触れています。

未読の方やこれから楽しみたい方は、間接的なネタバレを読んでしまう可能性がありますのでご注意ください。

「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」の紹介記事はこちら

【簡単なストーリー】

後見人制度から事実上解放され、大金を手にしたリスベットはミカエルに恋をしてしまった自身の感情に戸惑い、一切の連絡を絶ち切って外国へ旅に出てしまう。

突然、連絡の取れなくなったリスベットの態度に困惑するミカエルは、何とか連絡を取ろうするも拒否され、リスベットの強い意思を尊重して連絡を取ることをやめます。

リスベットが外国へ旅立っている一方で、ビュルマン弁護士はリスベットに復讐をする為ある男たちと連絡を取っていた。

ミレニアムは再び国中を震撼させるような大スクープに取り掛かっており、忙しい毎日を過ごしていた最中、スクープを担当していた記者とその恋人が射殺される事件が起きてしまう。

残された凶器にはリスベットの指紋が残されていた。

犯人はリスベットなのか?

メディアはこぞってリスベットの過去を暴き立て、その内容にミカエルは衝撃を受ける。

ミカエルはリスベットの無実を信じて調査を開始。

明らかになるリスベットの衝撃の過去とは。

母親を守ろうとしたあの日から、リスベットの孤独な戦いは始まった。

著:スティーグ・ラーソン 

訳:ヘレンハルメ美穂 山田美明/ハヤカワ文庫

どんな本?

「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」の続編で、この第二部から本格的なリスベットを中心とした物語が展開されます。

第一部から続く女を憎む男達という題材が、第二部からより強調されたものとなります。

第二部と第三部は物語が続いていますので、手元に第三部を用意していないと続きが気になって仕方なくなると思います。

第一部ではあまり活躍しなかった、リスベットの上司のドラガン・アルマンスキーと元後見人のホルゲル・パルムグレンが第二部から重要な存在となっていきます。

無実を信じて調査をするミカエルとドラガン、事件を担当したブブランスキーたち警察、そしてリスベット自身の調査の三者の視点で事件の真相に迫っていきます。

【自立と自由】

リスベットはビュルマン弁護士を管理下に置き、大金を手にしたことで初めての自由を謳歌します。

ミカエルへの感情に整理をつけることも兼ねて、外国へ旅立ちます。

大金と自由を手にしてもリスベットは相変わらずで、数学に夢中になってリゾート地でひたすら数式を書き殴ったり、酒を飲んで過ごしたりとマイペースに過ごします。

その中で、理不尽な暴力に遭っていた女性を助けるなどリスベットの価値観や行動原理は変わりません。

何をするにも自由で、大抵の望みなら叶えられるほどの大金を手にしたリスベットは、これからどのようにして生きていくべきか迷いが生まれます。

帰国後、唯一の友人のミリアム・ウー(愛称はミミ)に会いに行き、友人としての関係をまた続けることにします。

ミミはリスベットが今までと違って、どこか大人びているような印象を受けます。

続いて会いに行ったドラガンとパルムグレンもまた、リスベットに対して同じ印象を受けます。

社会から手厚く保護と監視を受けなければまともに生活が出来ないとされてきたリスベットは、自由を手に入れたことで大人へと少しづつ成長をし始めていました。

ドラガンからの指摘で、リスベットが以前の立場に甘えて周囲に対して配慮をしない行動をしていることに気づかされます。

ドラガンは数少ないリスベットを正当に評価している人物であり、リスベットが敬意を抱いている相手でした。

その相手からの言葉にリスベットは動揺し、自らの行いを反省します。

ミミからも同様の指摘を受けており、リスベットの人間関係の築き方の下手さは第一部から変わらないままでした。

リスベットがなぜ人間関係の築き方が人より不器用なのかは、リスベットの壮絶な過去が大きく影響をしています。

リスベットが夢中になった数学が一体どういうものなのかは、一度数学について書かれた本を読むとより分かりやすいと思います。

第四部「ミレニアム4 蜘蛛の巣を払う女」でも数学の話が出てきますので、読んでおいて損はありません。

「フェルマーの最終定理」の紹介記事はこちら

【復讐を誓う者たち】

ビュルマン弁護士はリスベットへの復讐を誓い、リスベットの過去を立場を利用して徹底的に調べ始めます。

自分の行いを棚に上げて、リスベットを蔑み自身より下の存在であると決めつけ、屈辱的な現在の立場に納得がいかず憎悪を膨らませます。

ここにもまた、女を憎む男が生まれるのでした。

弁護士である自分が、社会的無能力者で女性のリスベットに打ちのめされたという事実を受け入れられません。

受け入れられないどころか、それは人が空を飛ぶような自然の摂理に反したあり得ない出来事であり、ビュルマンにとってあってはならない現実でした。

ビュルマンはリスベットの敵を探し出し、依頼を持ちかけますがこれがビュルマンを破滅させることになります。

リスベットの敵であることは間違いない相手でしたが、その相手はリスベットに想像以上の憎悪と手段に訴える関わってはいけない存在でした。

リスベットの無実を信じて、調査を開始したドラガンでしたが指示を出した部下にはリスベットに恨みを持っている男がいました。

彼はリスベットを破滅させるため、捜査の妨害を行います。

特に公平な目線で冷静に捜査していた女性刑事のソーニャ・ムーディグを罠に嵌めようとするなど、質の悪い嫌がらせをします。

ミレニアムシリーズは、女性が活躍したり、意見をすることに対して一切認めない男性たちが数多く登場します。

彼らは女性を下等なものとしてみなして蔑み、馬鹿にした態度をとります。

著者のスティーグ・ラーソンは男性ですから、女性の問題をここまで描いたのには驚きます。

【第一容疑者リスベット】

ミカエルは射殺された二人の第一発見者となり、事件に関わることになります。

凶器の指紋からリスベットの名前が捜査線上に挙がり、精神病院に入院していたことや後見人制度を受けていたこと、暴力傾向があることが次々と明らかになったことで指名手配をされ、大々的に報道されます。

更に悪いことに、凶器の所有者のビュルマン弁護士が遺体となって発見されてしまいます。

リスベットは三人を殺害した凶悪犯として、追われる身となります。

ミカエルは報道されるリスベットの経歴にショックを受けます。

誰もがリスベットを疑いますが、ミカエルは自分だけはリスベットの味方になると周囲の反対を押し切って調査を始めます。

ミレニアムが出そうとしていたスクープが事件に関係があるのかもしれないとして、告発対象だった人物へ取材をし、ザラという存在に辿り着きます。

【道徳的か凶悪犯か】

捜査責任者となったブブランスキーは、リスベットについて詳しい人物に話を聞きに行きます。

ミカエルもドラガンも口を揃えて、リスベットは知能が高く道徳観があり理由もなく人を殺さないと話します。

公的な記録で描き出されたリスベット像と、彼女を知る人物からの評価の食い違いに戸惑い、リスベットが本当に犯人なのか捜査員の中でも意見が割れてしまいます。

特徴的な見た目と暴力的でまともに教育を受けていないはずのリスベットが、その足跡すら掴ませないことから捜査は混迷していきます。

捜査員の中に強引にリスベットが犯人だと決めつけている者や、捜査妨害する者も出て来てブブランスキーは頭を悩ませることになります。

【最悪な出来事】

ミカエルは逃亡中のリスベットと連絡を取ることに成功し、ザラが事件の鍵を握っていると伝えられます。

リスベットは世の中の全てがリスベットを犯人としてありとあらゆるプライベートなことを報道し、あることないことが世の中に垂れ流されている中、ミカエルが無実を信じて動いてくれていることに驚きます。

そしてドラガンもリスベットの力になろうとしてくれていることを知ります。

リスベットは独自に調査をして、「最悪な出来事」がどこにも情報として出ていないことに気づきます。

それはリスベットが母親を守ろうとして起こした行動であり、リスベットの最後の訴えでした。

ミカエルやドラガン、パルムグレンが語る通りリスベット程道徳的な人間はいません。

リスベットに対して偏見なく向き合った者だけが、リスベットの高い道徳観と優しさに気づきます。

第一部の母親の死は、リスベットにとって守ることの出来なかったという後悔と敗北を意味していました。

リスベットが公的権力を敵視するのは、母親を見殺しにしたとも言える行動と、リスベットの必死の訴えに耳を貸さなかったことが大きな要因でした。

第一部でミカエルが犯人の家庭環境から同情する点があると話すと、リスベットが激しく言い返したのは、自身の体験から環境は言い訳にならないと強く考えていたからです。

【燃やし尽くせなかった悪魔】

友人のミミまで事件に巻き込まれ、リスベットは他人を顧みない振る舞いがミミを事件に巻き込んでしまったと涙を流します。

「最悪な出来事」の時に、なぜ全てを燃やすことが出来なかったのかと後悔します。

リスベットは全ての元凶のザラの居場所を突き止め、この戦いを終わらせることにします。

ミカエルはリスベットの残したメッセージから、尋常でないものを感じ取りリスベットを助ける為に追い掛けます。

ミカエルは妹で弁護士のアニカ・ジャンニーニに、事件が解決したらリスベットの力になってくれるよう頼み込み現場に向かいますが、全てがもう終わってしまった後でした。

【最後に】

第二部で明かされたリスベットの家庭環境や生い立ちは、人間関係を円滑に結ぶことが出来ない理由としては充分すぎるものです。

リスベットは第一部でミカエルから、友人関係について敬意と信頼が必要だと諭されます。

パルムグレンは父親代わりとなり、リスベットに家族のような信頼関係と愛情を経験させます。

ドラガンはリスベットを保護し仕事を与えて自立させたことから、ドラガンに何かあれば助けるとリスベットの口から言わせるほどの敬意を抱かせます。

リスベットは幼少期に本来与えられるはずだった友情や愛情、他者への敬意をようやく経験することになるのです。

三者それぞれはリスベットに魅力を感じており、傍にいて欲しいと考えます。

その魅力はビュルマン弁護士も感じており、良くも悪くもリスベットは人を惹きつけるカリスマ性があります。

続く第三部でリスベットの物語は一つの終わりを迎えます。

スウェーデン版映画「ミレニアム2 火と戯れる女」では、警察パートがかなりカットされている為、映画だけ見ているとブブランスキーぐらいしか警察側では印象に残らないと思います。

原作に忠実であることは間違いないのですが、女性刑事のソーニャ・ムーディグは芯の強い魅力的なキャラクターの為、映画を面白いと思ったのであれば原作にも挑戦してほしいと思います。

続編「ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士」の紹介記事はこちら

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