SF小説の名作として必ずと言っていいほど挙げられる作品「星を継ぐもの」。
あまりにも有名なので読んでみようと興味を持ち、手に取りました。
【簡単なストーリー】
ある日、原子物理学者ヴィクター・ハントは自身が開発した物体に触らずに解析をすることのできる「スコープ」を極秘裏に使用して、あるものの解析をして欲しいと依頼される。
半ば強制的な依頼に不信感をもつハントだが、解析の依頼はなんと月で5万年前には死亡したと思われる宇宙服を着た謎の死体だった。
チャーリーと名付けられた謎の死体は一体何者なのか?
これまで定説とされてきたあらゆる人類の起源について、根底から覆されかねない謎に学者たちが挑んでいく。
著者:ジェイムズ・P・ホーガン 訳:池央耿
学者たちの挑戦
「星を継ぐもの」を読んでから実は三部作だったことを知り、「ガニメデの優しい巨人」「巨人たちの星」も読了しました。
ミステリー小説が好きな人なら、SFに抵抗がなければ楽しめる小説だと思います。
SF小説でありながら、未知へと挑む学者たちの挑戦の物語でもあります。
とにかく謎が壮大です。
月で生物の亡骸が発見されただけでも大騒ぎだというのに、それが5万年前には死んでいて、解析不能な装置や文字を持った見た目は地球人そっくりなのだから訳が分かりません。
この小説の登場人物のほとんどは学者か科学者、技術者です。
当然謎へのアプローチも合理的・論理的な思考をもって行われます。
チャーリー自身の亡骸の分析や持ち物の解析、独特な文字の解読と各専門分野の学者たちが取り組んでいき次々と明らかにされていくのですが、この過程がとても丁寧に描かれます。
学者らしくあらゆる可能性を考え、曖昧さを回避し慎重に事を進めていきます。
一つのことが分かったと思ったら、別の部分では整合性がとれなかったりと完璧な解は中々得られません。
読者は、一体どういうことなんだと主人公のハントと一緒に頭を悩ませることとなります。
ハントとダンチェッカーの対立
ハントを悩ませるもう一つの原因が生物学者のクリスチャン・ダンチェッカーの強弁な主張です。
彼は生物学の観点から、ハントと意見が対立します。
ダンチェッカーにとって己のすべてを賭けて研究をしてきたことが、チャーリーの謎の解明次第で無に帰してしまうのですから、簡単には折れません。
このダンチェッカー、序盤での印象は自分の学説に固執する石頭だったのですが純粋に真実を追い求めることに妥協のない人物ということが分かります。
お互い真実の解明に妥協をしないハントとダンチェッカーのやり取りは、一体どちらが正しいんだとページを捲る手が止まりません。
真実を明らかにしたいという好奇心と使命感が、彼らを突き動かしていきます。
最後に
「星を継ぐもの」はチャーリーの謎から端を発した、人類の始まりについての謎に迫る壮大なSFミステリーです。
三部作ではありながら「星を継ぐもの」だけが有名なのは、「星を継ぐもの」だけで終わっても問題がないのと「月に5万年前の死体が発見された」というインパクトのせいでしょうか。
問題ないと書きましたが、実は「星を継ぐもの」だけでは本当の真実はわかりません。これは第三部「巨人たちの星」のラストの為の序章にすぎません。
SF小説が好きなら「巨人たちの星」の作りこまれた脚本とSFらしい結末を楽しめると思います。
第三部まで読んで初めて「星を継ぐもの」のタイトルの意味がわかります。
とはいえ、絶対に全部読まなくちゃダメ、ということはないと思います。
「星を継ぐもの」を読了後、あれって一体何だったんだ?と気になった方が、二部と三部を読むといいと思います。
名作と言われるだけあって、とても楽しい読書時間となりました。